ブルー・ロマン・アイロニー
「あまり」
ノアの声がわたしの名前を紡ぐ。
穏やかな声色はノアがあれだけ嫌っていた諦めのように聞こえて、いやいやと首を横にふる。
まだ帰りたくないと必死に駄々をこねる子供のように。
遠くからいくつもの足音と話し声が聞こえてくる。
夜は、別れは、もうすぐそこまで迫っていた。
「あまり」
もういちど名前を呼ばれて、わたしは顔をあげ、滲む視界の向こうに見てしまったのだ。
銀河のような、
冗談みたいに深く、
それでいて透き通った青色を。
「……ノアは自由だよ。だって……ずっとここに、あったんだよ」
涙で濡れた瞳が光に反射して、いつもよりも明るく見える。
ノアのほんとうの色は、こんなにもきれいなブルーだったんだ。
わからなかった。こんなにも近づかないと気付けなかった。
皮肉にも、ずっとここにあったんだ。
「こんなにも近くに、ずっとここにあったんだね────ノア」
それはノアがいつも夢見ていた、なによりも自由な色だった。