ブルー・ロマン・アイロニー





あなた、『銀河鉄道の夜』って小説知ってる?


もうずっと昔の小説だから、若い子たちは知らないだろうけど……とてもいいお話なの。


よかったら今度、探してみて。

……そう、『銀河鉄道の夜』



栞さんはね、そのお話が大好きだったの。


銀河を走る鉄道に乗って宇宙を旅するなんてロマンだ!って子供みたいに顔を輝かせて。

その設定も、親友とほんとうのさいわいを探し求めるストーリーも、なにもかもが愛おしいんだって、ページを捲りすぎてボロボロになった文庫本をいつだって持ち歩いていたわ。


だけどそんな彼女が唯一、否定してることがあった。

それは……
作者の、ほんとうのさいわいに対する考え方。


あたしはそのことはよくわからなかったけれど、何かで作者がそう言ってたのを読んだみたい。


世界が幸せにならないと個人の幸福はありえない、って、ありえないでしょ!っていつも言ってた。私はそうは思わない、とも。


そんな栞さんがよく口にしていた言葉があるの。

あたしは今でも、それをよく覚えてる。




────まず目の前の人を幸せにできなきゃ、

そうじゃなきゃ、世界の幸せなんて夢のまた夢だ。



……うん、そう。言ってたのよ。

ほんとうにそう言っていたの。


だからね、あまりちゃん。

あたしはまず、あなたを幸せにしたい。

栞さんたちのために、残されたあなたのために、アンドロイドたちのために、……世界のために。



今は従うしかないけれど、いつか必ず……あなたの望む世界になるから。してみせるから。


だから、決して諦めないで────……




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