ブルー・ロマン・アイロニー
「一個にしろ、一個。多くは語らねえのが粋ってもんだからよ」
「じゃあ、……いま何時だと思ってるの?」
「嘘だろお前!」
5時5分47秒!とご丁寧に秒数までいってくれた。「他に聞くことあんだろ!どうして帰ってこれたの?とか、記憶は消されてないの?とか、もっと重要なやつ!」
わたしはそれじゃあ、と扉を閉めかけると、がっと黒い革靴が差しこまれた。
「……もうヤクザじゃん」
「ヤクザじゃねえ!俺にはちゃんと名前が……つーか、なん、なんだお前!もうちょっと喜ぶ計算だったんだが?すでに部屋に入ってる予定だったんだが?」
「こわ……なんか部屋に入ってこようとしてる」
「お前!もしかして俺のこと忘れたのか?はやくねえか?やっぱ鳥頭なのか?」
わたしは渋々、ドアを開ける。
勘違いしないでほしい。
こんな朝っぱらから、家の前で騒がれたくないからだ。