ブルー・ロマン・アイロニー
立ち止まって振りかえれば、思ったよりも近くに黒スーツ。
見上げるようなかたちで厳つい顔をきっと睨みつけた。
「あなた、これからどうするつもりなの」
「そのあなたっての止めてくれねぇか。気持ち悪くて背中がムズムズする」
「どうするつもりなの」
「んなこと言わなくたってわかるだろ?」
ぐっと言葉につまったのは、悔しいけれどその通りだったからだ。
わざわざ言われなくたってわかる。
わたしはうなだれ、その事実をあらためて言葉にした。
「……マスター登録をしたアンドロイドは最低でも1ヶ月は解除できない仕組みになってる」
「正解」
「野良アンドロイド、つまり所有者がいないもしくはなんの目的もなく一人で出歩いているアンドロイドが捕まれば、マスターがいる場合その登録者が処罰の対象になる」
「そう」
「だからわたしはあなたを野放しにできない。そして解除することもできない。あなたのマスターになるしかないってこと、でしょ」
「そうだ、よく知ってんなお前」
偉い偉い、と頭を撫でられそうになった。
「触らないで!」
その手を勢いよく振りはらう。
手に当たった感触はほとんど人と変わらなくて。それがまたどうしようもなく嫌だった。