ブルー・ロマン・アイロニー
ある日、伯母さんがわたしのところに一冊のパンフレットを持ってきた。
それはこの家から遠く離れた地にある、公立の進学高校のものだった。
────あんた地頭はいいんだからここに行きなさい。
とくに魅力も感じない学校案内に目を通すふりをしながら、なるほどそういうことかと伯母さんが言わんとしていることを悟った。
もう、いい加減、厄介払いしたいんだ。
────わかりました。
元よりわたしに拒否権なんてない。
この家に来てからわたしの拒否権は「こんな生活耐えられない」とひと足先に逃げ出してしまった。
わたしはそれをただ黙って見ていた。
そしてしばらくの間は勉強に専念し、3月には無事、伯母さんの志望校、に入学が決まった。
このとき伯母さんは、わたしがここに来てから初めてぎゅっと胸に抱いて、よくやったと褒めてくれた。
あと少し早くこうしてくれていたら、わたしもちょっとは喜んでいたかもしれない。
だけど息苦しいなと思うだけで、もうなにも感じなかった。
こうしてわたしはまた帰る家を失った。