ブルー・ロマン・アイロニー


ずっと空席だった左隣の──アンドロイド用の席。

わたしも、やっと埋まったんだ。

アンドロイドどうこうを抜きにして、そのことにほっとしている自分がいる。


学校はアンドロイドを連れてくることを推奨しているわけではない。

だけど、教室にはあらかじめアンドロイド用の席が、それぞれの左隣に用意されていた。


そこは自分のもう一つの席だといっても過言ではなく、教室の8割が埋まっていた。

それなのにいつまでたっても埋まらないわたしの左隣に、わたしはいつも複雑な気持ちを抱いていた。

劣等感、空虚感、羞恥心。

そのどれもが些細なものだったけれど、淡雪のように少しずつわたしの胸に降りそそいでいった。


だから、たとえそれが人を模したロボットだったとしても。

隣に誰かがいるということが、わたしの胸にうすく積もっていた淡雪を払い落としてくれた気持ちだった。


あれだけヤクザだ反社だと騒がれたというのに、そんなことは意にも介していないらしい。

アンドロイドは似合わない机に頬をつき、窓の外を眺めていた。

なにかおもしろいものがあるのかと思ったけれど、そこにはただ青い空が広がっているだけだった。


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