ブルー・ロマン・アイロニー
Iron fist in a Velvet Glove
アパートについてすぐ、ハサミをつかんで脱衣所に入ろうとした。
そんなわたしの腕をつかんだのはアンドロイドだった。
おいおいおい、なにするつもりだ、と。
力こそ強くないものの、それはたしかな抑止力をもってわたしの腕を抑えつけていた。
「なにしようとしてんだ」
「切るの」
「なにを」
「髪を」
「なんで」
なんで、って聞かれても。
そんなのわたしにだってわからないよ。
いままで惰性で伸ばしてきた髪に愛着なんてない。
切り落とすことくらい造作もないことだ。
だけど、切りたいとも思っていなかった。
一体なにがわたしを駆り立てているのだろう。