ブルー・ロマン・アイロニー
「だからってお前がむりに変わる必要ないだろ」
「むりじゃない。ほうっておいて」
「そのまま切ったら絶対後悔するぜ」
「そのままってどういう意味……」
わたしはそのとき、ようやく気付いた。
自分の手がカタカタと震えていたことに。
いまにも取り落としてしまいそうなハサミに、やけになって髪に刃を入れようとする。
もう長さなんてどうだってよかった。
ぐっと手に力を込めるとほぼ同時、ハサミの刃のあいだに人の手が差しこまれた。
何の躊躇もない手つきに、ひゅっと喉が鳴る。
「っ、ごめ、大丈──」
「俺は人間じゃねえからよ。痛くも痒くもねえんだわ」
わたしの髪を守るように、人間ではとても真似できないような方法でハサミの刃を跳ね返したアンドロイドは、傷ひとつ付いていない手をひらりと振ったあと。
驚きのあまり呆然としているわたしに、さながら悪人のような笑みを浮かべたのだった。
「俺が切ってやろうか」