ブルー・ロマン・アイロニー
「お」
「なに。失敗したの」
「白髪みっけた。しかもたくさん。お前も苦労してんだなぁ」
「……抜いといて」
服を着たまま入るお風呂場はなんだか新鮮だった。
鏡に映る自分が裸じゃないことにわたしは妙な気持ちになりながら、自分の後ろにいるアンドロイドを鏡越しに見つめる。
そこまで広くないお風呂場は一人と一体で入るともっと狭くなった。
とくに体格のいいアンドロイドは、風呂椅子に座ったわたしの後ろで窮屈そうに長躯を折り曲げている。
膝をついていても向こうの方が高いんだな、とよく考えたら当たり前のことを考えているわたしとは違って、なんの迷いもなく髪にハサミを入れていくアンドロイドはじっと毛先だけに集中していた。
てっきり雑に切られると思ったけれど、案外ちゃんとしてくれるんだ。
そう思っていた相手に、しかもアンドロイドに任せようと思ったわたしもわたしだけど。
「ほんとうにいいのかな」
「なにがだ」
「髪、ばっさり切るの」
「嫌ならやめるか?もうだいぶ切ってるけど」
「変って言われたらどうしよう」
「俺に人間の美的感覚はわからねえ」
その言葉のとおり惜しみなくばっさばっさとハサミを入れていくさまはいっそ清々しかった。