ブルー・ロマン・アイロニー


しばらくして前髪を切るためにアンドロイドがわたしの正面に回ってきた。



「前髪も切るの?切りすぎないでね」

「切ったほうが全体のバランスがよくなる」

「後ろから切れないの」

「抱擁する形になってもいいなら切るが?」

「前から切って。ねえ、切りすぎないでね」

「はいはい。仰せのままに」


わざわざ煽ってくるような言葉を選んでくるのがうっとうしい。

わたしが反発したくなるような言い方をしてくるのがうっとうしい。

結果としてものすごくうっとうしい。


それでもどんどん軽くなっていく頭に、しゃきん、しゃきんと冷たい金属音にわたしはそっと目をつぶった。

不思議だ、と思う。今なら眠れそうな気がした。


切羽詰まって髪を切ろうとしていたさっきまでの自分がまるで嘘のようだ。

あれは夢だったのかもしれないと思えるほどに、わたしの心は凪いでいた。

それが一過性のものだとわかっていても、つかの間の安寧はわたしに眠気とゆだんを誘う。


カメレオン、とつぶやいたとき、夢と現実がはんぶん曖昧になっていた。



「カメレオンと人間って似てるよね」

「急にどうした」

「自分の色を捨てて、あっさり違う色になるところとかさ。そこに羞恥や躊躇なんてないところとかさぁ」

「それが安全だからだろ」

「こんなにも他人中心に生きる動物って、人間とカメレオンくらいだと思う」


周りと比べて、周りの目を気にして、同じになろうとして。

危険がその身に迫ったときはあっさりと色を変えて気配を消す。

なんて惨めで、かわいそうなんだろう。


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