ブルー・ロマン・アイロニー
「お前な」
ぺしんとおでこを叩かれた。これは危害を加えたことにならないのか。
人間に危害を加えようとしたらブレーキがかかる安全装置が作動しないなら、そういうことなんだろう。
叩き返そうとしたらあっさりとかわされた。
「カメレオンも人間も一生懸命、生きてんだから。惨めとかかわいそうとか、そんなこと言ってやるなよ。つーかそんなことはどうでもいいんだよ」
「どうでもいいんだ」
「当たり前だろ。興味ねえよ、爬虫類と哺乳類の生き様の共通点なんて」
それよりも、と前髪についていた髪の毛を手で払われる。
「上手く切れたら俺に名前くれよ」
「またその話?飽きないの?」
「自分の名前がかかってんのに飽きるわけねえだろが」
「ふうん」
「ふうんてお前。考えとけよ。もう終わったから」
はいできた、と。アンドロイドが脇に捌けた。
ぱっと鏡に現れたのは知らない女の子、のようだった。
胸のあたりまで伸ばしっぱなしだった髪が、お手本のようなボブになっている。
巻いたわけじゃないのに綺麗に内巻きになっているのは、そうなるように切ったからだろう。
どんな技術だ、と思ったけれど、アンドロイドだからそんな芸当もお手のものなんだ。
そして、あれだけ言ったのに、前髪は眉が出る長さまで切られていた。