ブルー・ロマン・アイロニー
次の日、すこし迷って顔にメイクを施した。
といってもかなり薄付きだけど。
頬にはたいたストロベリーピンクのパウダーは、前にナナちゃんから要らなくなったからともらったものだった。
唇には薬用だと思って買ったら色つきで、そのままなんとなく使わずにしまっておいたリップをさっと塗った。
それだけでまるで自分の顔がショートケーキのようなふんわりした甘い印象になった気がして、思わず赤らんだ。
メイクなんてほとんどしたことがなかったから、これで合っているのかもわからなくて。
だけど誰かに見てもらうこともできず、わたしは断腸の思いでリビングで本を読んでいたアンドロイドの元に向かった。
「ね、ねえ。変じゃない?」
「変じゃない、変じゃない」
「嘘つき。きのう人間の美的感覚はわからないって言った」
「お前じつは結構めんどくせえタイプだろ」
「う……」
「かわいーぜ、あまりチャン♡」
「うるさい!」
「いや理不尽すぎんだろ!」
わたしはアンドロイドと家を出た。
昨日の今日で連れていくことに抵抗がなかったといえば嘘になる。
学校にアンドロイドを連れていくメリットがないことも、昨日わかったし。
それでも当たり前のように後ろを付いてくるアンドロイドを咎めなかったのは、わたし自身、変わろうと決意したから。
アンドロイドひとつくらい、どうってことない。
電車に揺られている間、ずっとどきどきしていた。
ナナちゃんたちがどんな反応をするのか、考えただけで今にも心臓が飛び出てしまいそうだった。
やっぱりやめておけばよかった、と何度も思い、そのたびに頭を振るってネガティブを打ち消した。
”大丈夫”は魔法の言葉なんかじゃない。
わかっていても、わたしは気がつけばその5文字を心の中で繰り返し呟いていた。