自信家幼なじみが隠すもの
『この映画、桃が観たいやつだろ? 今日特に予定ないなら観に行こーぜ』
『観に行きたい! ……けど、どうして知ってるの?』
『CMの度にあんな食い入るようにテレビを見つめてたらわかるっつーの』
『バレバレなの、恥ずかしい……』
『おはよ……ってあれ。準備してくれたの?』
『おう、珍しく早く起きたからな』
『目玉焼きは半熟、ジャムは苺、コーヒーはブラックだ……』
『毎朝同じだし、さすがに覚えたわ』
『……なんて優秀な家政夫さん』
『家政夫じゃなくて彼氏なんだが?』
『なぁ桃、聞いてくれ。最悪なことに弁当を忘れた』
『寝坊したんだっけ? 購買に行くしかないね』
『実はもう行ってきた。そこで取引をしたい』
『取引……?』
『ここに桃が凄く気にしていた季節限定の桃クリームメロンパンがある』
『お、おぉ……!』
『ってことで桃が持ってきた弁当と交換してくれ』
『喜んで!』
『……桃がちょろいやつで助かった』
そんなこんなであっという間に同居を始めてから半月が経ち、気づけば夏休みに突入していた。
進学校に通う高校3年生に夏休みなんてものが存在するはずもなく、平日は毎日午前中に補習があるせいで元気に登校しなきゃいけない。
私は午後に図書館で勉強するのが日課になっているから、私の『ただいま』に大和くんの『おかえり』が返ってくるのが普通になっていて。
それが大好きな人からのものだなんて、幸せ過ぎて怖いくらい。
そしてそれはある日、やっぱり儚く崩れ去ったんだ。