自信家幼なじみが隠すもの

自信家幼なじみが隠すもの




 桃の泣き顔を見たのはこれまでにたった一度切りだけだった。


 小学校低学年の頃に2人きりで出かけた地域の夏祭り。


 繋がれていなかった俺たちはあっさりと人混みに負け、離れ離れになってしまった。


 大人たちにぶつかられ、揉まれ。


 しばらく見ない内にぼろぼろになった桃は、花火の爆音に負けないくらいの大声で泣いていた。


 膝から血が流れているのを見るとなぜだか自分の胸が痛くなってきて。


 そりゃ女の子だし、わんわん泣きたくなるよなって納得した。


 でも、桃が泣いてたのはもっと違う理由で。


『うぅ……ひっく。やまとくんがけがをしちゃってたら、すごくいたいだろうなって。やまとくんがくるしいのはいやだなって。なみだがとまらなくなっちゃったぁ……』


 人のことを思って涙を流せる桃。


 俺のことを思って泣きじゃくる桃。


 どうしてこの子はこんなに愛らしいんだ。


『これからは俺が桃を守ってやるからな』


 俺の大好きな子。


 笑顔を守り続けるために、ずっと傍にいる。


 決して泣かせはしない。そう誓ったはずなのに。それなのに。


「……なんで泣いてんの?」


 桃は、あのときと同じくらいにぼろぼろと大粒の涙を零している。


 俺のベッドの手前で座り込み、身を小さくして痛みに必死に耐えているように見えた。



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