教壇の教師、悪食なり
先生、と掠れた声で呼び止められた。
夕暮れのオレンジが、夏で焼けて色素が薄くなった黒髪がキラキラ照らす。
少し浅黒くなった肌に黒目が若干潤んで見える。肌も火照っているように濃い気がする。
部活終わりなのだろう、バスケ部の彼は着替えるのが面倒になったのか紺色のバスパンのままだ。
子どもから大人への羽化する途中の絶妙な年頃で、彼はどんどん吸収して、自分の力として立てる子だろう。
そう思える子が目の前にいる真田という子だった。
真田は成績こそ停滞していたが、彼は諦めることが苦手で先生に粘って説明を求めていた。
そういう性分は彼の強みで、私はとても好きだ。
自分自身、学生の時そこまでして熱中できていたかといえばできていないので尊敬すらする。廊下の踊り場で、呼び止められた。
「どうしたの、真田さん」
私は笑いかけもせず、淡々と応じた。生徒との距離は一定に保つことにしていた。
平等に、敬意をもって生徒に話しかけるとちゃんと相手も敬意を持って話しかけてくれるのだ。
彼は一瞬ひるんだように、身体を固くした。しかし、振り切るように、真っ直ぐ私を射止めた。
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