【コミカライズ連載中】姉に婚約者を寝取られたので訳あり令息と結婚して辺境へと向かいます~苦労の先に待っていたのは、まさかの溺愛と幸せでした~
「はぁ……」


小さな溜息は空気に溶けるように消えて行った。

思い出すのは三日前の事。
手紙の返事を書いてから、再び届いた真っ黒な封筒。

そこには"この手紙が届いてから三日後に迎えに行きます"という短い文と結婚の書類が詰め込まれていた。

普通ならば「有り得ない」と誰もが言うだろう。

流石に予想外の対応にひっくり返りそうになった。
恐らく此方の容姿やどんな人間なのかはどうでもいいのだろう。

しかし、今の自分にとってはこれ以上有難い事はなかった。

フレデリックと婚約破棄した理由を根掘り葉掘り聞かれるのも辛い。
それに、ここを出て行くのが早ければ早いほどいいと思っていた。
何よりフレデリックとジャネットが一緒に居る姿を見たくなかったからだ。

自分の思い描いていた幸せで温かい結婚とは何もかも違っていて真逆だった。
投げやりな気持ちもあったが、今はこんな方法でしか思いつかない。

殆ど顔も知らない相手と紙だけで契りを交わす。
まるで物語に出てくる可哀想な主人公みたいだ。

(いいえ、違うわね……私はヒロインにはなれない)

父に急いで書類を作成してもらい、侍女達に荷造りを手伝ってもらってから家を出る準備をしていた。

姉はニルセーナ伯爵邸にフレデリックと共に挨拶に向かっていた。
それから"婚約者"として向こうの屋敷に数日間滞在すると言っていた。

今からフレデリックの婚約者として、ニルセーナ伯爵家に嫁ぐ者として色々と学ぶのだろう。

自分がそうだったように。
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