【コミカライズ連載中】姉に婚約者を寝取られたので訳あり令息と結婚して辺境へと向かいます~苦労の先に待っていたのは、まさかの溺愛と幸せでした~
ひっくり返るようにして後ろに倒れ込んだ。
足元に荷物が置いてあった為か、なんとか頭をぶつけずには済んだようだ。
しかし、直ぐに体の上に何か重たいものがのし掛かる。


「ーーッ!?」


真っ黒になる視界……同時に影が落ちる。
ペロリと大きな舌で頬を舐められて反射的に体を固くした。


「ひっ……!?」


ワンワンという元気な鳴き声と共に、グッと押されるような重みを感じて息が止まる。
そのまま声にならない叫び声を上げながらも手をパタパタと動かして、もがいていた。


「こら……ッ!ブル、だめだろう?」


黒い塊が体の上から引き剥がされて、安堵から息を吐き出した。

ワンワンと嬉しそうな声が聞こえてきたが、倒れ込んだまま起き上がる事が出来ずにいた。
チラリと視線を送ると、目の前には髪が長く目元が全く見えない根暗そうな青年が立っていた。

(た、助かったの……!?)

尻尾でペシペシと頬を叩かれている。
大きな犬は青年に寄りかかるようにして、戯れついている。
小さな声で「痛い、ブル痛いってば……」と声が聞こえた。

あまりの出来事にどうしたらいいか分からずに倒れ込んだままでいると、前に手が伸ばされる。


「……!?」


しかし掴もうと手を伸ばした瞬間、何故か腕を引かれてしまい、困惑して行き場のなくなった手は重力に従って下りていく。

(えっ……と、どうしよう。触りたくなかったとか……?)

初めての状況に時が止まったかのように互いに動かなくなっていた。

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