【コミカライズ連載中】姉に婚約者を寝取られたので訳あり令息と結婚して辺境へと向かいます~苦労の先に待っていたのは、まさかの溺愛と幸せでした~
それからは良く覚えていない。
必死に謝ったとしてもウェンディは何も答えてくれなかった。

彼女は涙を流す事もなく、此方を冷めた目で見下しながら「この事は……お父様に報告させていただきます」と言って去ってしまった。

泣きながら怒鳴られると思っていた。
ジャネットと揉み合うと思っていた。
裏切り者と罵られるだろうと……そう思っていたのに。

自分でもおかしいと分かっていたが、ウェンディの態度に怒りを感じていた。

(俺への気持ちは……こんなものだったのか?こんなに長い間、一緒に居たのに……!あんなに好きだと言っていたのに)

腹の中に燻るこの気持ちはなんだろうと、思ったところで大きな喪失感は消えなかった。

動けずにいるとジャネットが嬉しそうに此方に擦り寄っていた。
先程とは違ってクリアになる視界……濃厚な薔薇の香りに吐き気を覚えた。

邸に帰り、事情を説明すると父には「伯爵家を継ぐ自覚が足りない」「恥を晒す気か」「なんて説明するんだ」と叱られはしたが、母は特に何も言う事はなかった。

それに母は、どちらかといえば華やかな容姿であるジャネットの方が好ましいからと嬉しそうに答えた。
ウェンディの魅力を隠していたのは自分だ……けれど何も言えなかった。
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