【短編】保健室の常連客
先生の邪魔をしないよう静かに腰を下ろし、テーブルの上の黒いかごに手を伸ばす。
来週分の保健だより、今日までに終わらせなきゃ。
──ガラガラガラッ。
「失礼しまーす」
下書きの文字をペンでなぞっていると、保健室のドアが開いた。
見なくても声だけでわかる。だけど、一応手を止めて挨拶をする。
「やっほー、桧村さん。また来ちゃった」
「……いらっしゃい」
愛らしい笑顔で手を振る、1人の男子生徒。
広川想悟くん。今年で2年目の付き合いになるクラスメイトだ。
「何書いてるの?」
「保健だより。来週号は、夏バテに効果的なオススメ料理だよ」
「へぇ〜! どれどれ〜」
食べ物だと瞬時に瞳を輝かせ、隣に座ってきた。
「豚しゃぶ肉と豆苗のポン酢和えかぁ。美味しそう。やっぱ夏は豚しゃぶだよな〜」
手元を覗き込んできた彼。
ち、近い……。
低めの声が鼓膜に響いて、心臓の音が大きくなる。