【短編】保健室の常連客
冗談を言い合っていると、広川くんがボソッと呟いた。
「ピッタリ? 私と?」
「うん。桧村さんは掃除が得意で、俺は料理が得意。家事分担できるでしょ?」
言われてみれば……。
料理はあまり自信ないから、お互いの苦手分野を補うにはちょうどいい。
一瞬、恋愛の相性かと思ってドキッとしちゃった。
「さっきのお肉、気に入ってくれたみたいだし、弁当作るからさ、マジで掃除しに来てくれない? 桧村さんの好物たくさん入れるから!」
「お願いします!」と手を合わせてきた。
ええっ⁉ それ、お給料出すよって言ってたやつだよね⁉ 冗談じゃなくて本気だったの⁉
「もちろん、お給料も払います。時給か報酬制か、日給かは、好きなのを選んでいいので……」
「わかった! わかったから1回落ち着いて!」
椅子の上で土下座しようとしていたので、慌てて止めた。
掃除しに行くのは嫌じゃないけど、学校で生々しい話はやめて!
「暑さが和らいだ後なら……いいよ」
「マジ⁉ ありがとう!」
熱量とお弁当に負けて、承諾してしまった。
一部始終を見ていた先生はというと……プルプルと肩を震わせている。
はしゃぐ彼と、笑いをこらえる先生の間で、小さく溜め息をついたのだった。