【短編】保健室の常連客
「えっ……! いいの? 観たい映画あるんじゃない?」
「いや、特に。困ってたからもらっただけ。先約があるなら仕方ないけど……」
入口を塞いでいたので、一旦席に着く。
誰とも約束はしてないから、行けないことはない。
だけど。
「私はいいけど、広川くんの好みに合うかどうかが……。青春ど真ん中の恋愛ものだけど、大丈夫?」
「大丈夫! 青春もの好きだし。詳しい話は、授業終わった後でいい?」
「わかった……」
先生が来てしまい、広川くんは自分の席に戻っていった。
チラッと見えた耳が、赤くなっていたような。
もしかして、デートのつもりで誘った……?
◇
テストが終わって次の日の土曜日。
映画館に集合時間の20分前に到着した。
彼が来ていないのを確認し、トイレで身だしなみを整える。
「緊張してきた……」
パウダールームの鏡の前で、大きく深呼吸。
どこも、おかしくない……よね?