【短編】保健室の常連客
武田くんと他愛もない話をしつつ、駐輪場に自転車を停めた。
良かった、まだ来てない。
彼の自転車がないことを確認して、胸を撫で下ろした。
安心したところで、学校が始まったら必然的に顔を合わせるから、いっときだけど。
校舎の壁にかけられた時計を見る。
始業時間まで、あと20分。
登校してくるまでに、心の準備をしないと……。
「おっ、広川! おはよー」
すると、先に昇降口に入った武田くんが、元気よく彼の名前を呼んだ。
「あ、武田。おはよう」
「あれっ、お前自転車じゃなかったっけ。歩いてきたの?」
「うん。最近ちょっと調子悪くてさ」
教室に行こうとする彼を呼び止めて会話する武田くん。
そんな彼の背中に身を隠して、静かに靴を履き替える。
雨の日ならまだしも、どうして今日に限って……。
タイヤの調子が悪かったのかな。
「そっかぁ。毎日あちぃもんな。なぁひむ……あれ?」