【完結】この結婚、漫画にしちゃダメですか?
拓実の想い
「香菜ちゃんね、三日前急に辞めちゃったんだよ─。……連絡?いや、辞めてからはないね。何、小河原さん。香菜ちゃんと連絡取れないの?」
マスターに挨拶をした僕は喫茶店を後にした。
本当なら今日は幸せな一日になっていたはずなのに。なぜ俺は今一人なんだ。
"ごめんなさい。やっぱり拓実さんとは結婚できません"
香菜からの最後のメール。
なぜ香菜は結婚式に来なかった?
なぜレンタル家族なんだ?
なぜドタキャンなんて……。
式場を出てから自問自答ばかりだな。いくら考えても、直接香菜から聞かないと何もわからないというのに。
俺は店の前で立ち止まって掲げてある看板を見つめた。ここは『喫茶店まちだ』という商店街の中に昔からある小さな喫茶店だ。
会社から近いのもあって、昼休憩や仕事が終わった後もよく利用している。香菜はここの店員だった。
一年前のあの日も仕事終わりにこの喫茶店に寄ったのだ。
その日は目を通さなければならない書類が多かった為、喫茶店でも珈琲を飲みながら仕事をしていた。
それから一時間程経った頃だろうか。
「お仕事大変ですね。もう一杯珈琲いかがです?」
「……いえ。そろそろ帰るので水だけ一杯もらえますか」
「はい!」
そう言って香菜は空になっていたコップに水を注ぎ入れてくれた。
俺はその時のことを思い出してつい微笑んでしまう。
香菜は急にマスターに呼ばれたせいで、手元が狂って俺に水をかけてしまった。
「やだ!どうしよう、ごめんなさい……拭きますので上着脱いでください!」
思えばあの時、香菜が水を俺にかけなければ結婚するまでいかなかったかもしれない。
俺はスマホを手に取り香菜の番号に電話をかけた。
"お客様のおかけになった電話番号は現在電源を切られているか電波の──"
はぁ─……
「香菜。一度ちゃんと話がしたい」
留守電にメッセージを入れて電源を切ろうとした時、スマホにカチカチと何かが当たっていることに気が付いた。