【完結】この結婚、漫画にしちゃダメですか?

──指輪……。

そうだ。優木さんにまだ結婚指輪を返してもらっていなかった。失くしてなきゃいいけど、あの人ズボラっぽいしな。

でもまさか今日の結婚式を優木さんとするなんて夢にも思わなかった。

花嫁の代役をすると言われた時はビックリしたし、正直何を考えているんだと思ったぐらいだ。

俺は結婚式の時のことを思い出したら、クックッと腹を抱えて急に笑いが止まらなくなった。

こんな夜道で男が一人笑っていたら完璧に怪しい人だ。でもあの時の優木さんの顔を思い出すととても可笑しかった。

神父が誓いの言葉を言った時。
「新婦香菜、あなたはここにいる拓実を病める時も、健やかなる時も、富める時も、貧しき時も、夫として愛し敬い慈しむ事を誓いますか?」

「は、はぁい!ち、ち()います」
ものすごく緊張して噛んでたし。

「では誓いの口づけを」

俺が意地悪なことを言ったからかベールを上げると、目と口がこれでもかっていうぐらい力が入っていて、思わず吹き出しそうになった。

漫画も今日ぐらい度胸のあるものをもう少し描いてほしいんだが、どこか自信なさげな感じなんだよな。
実力はあるんだから思いきって発揮してほしいぐらいだ。

けど、あの最後の言葉にはちょっと救われたかもしれない。

「小笠原さん!」
帰り際、優木さんが呼び止めてきた。

「あのですね……辛いことがあった日はとりあえず、いっぱい食べていっぱい寝て、頭を空っぽにしてください。そしたら明日また頑張れるかも……ってこれ、うちのばあちゃんの家訓なんです!」

優木さんのところのおばあさんって、確か三年前に亡くなったんだったよな。それにしても家訓って……。

暗い夜道の中、歩きながら俺は空を見上げた。
「そういえば優木さん。なぜあの式場にいたんだろう?」
俺は今さらながらの疑問をポツリと呟いた。
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