【完結】この結婚、漫画にしちゃダメですか?
私がお世話になっている出版社『QED』は歴史はまだ浅いものの様々な出版を手掛けている。また巧みな出版戦略を用いてどの部門でも今では売り上げ好調な優良企業なのだ。
そして今私は、首が痛くなるほど高い出版社のビルを溜め息をつきながら見上げている。
なんか小笠原さんと会うのちょっと気まずい感じだな。……でも指輪はちゃんと返さなきゃだし、担当なんだからいつかは会わなきゃならないんだし。
昨日、功太の転勤話以上に焦ったことがあった。
指にはめていた結婚指輪がない!
そりゃめちゃくちゃ探しました。……でもなかった。頭が真っ白になっていたそんな時、麻希から一通のメッセージが入った。
"指輪は晴のポケットの中。すまん、言うの忘れてた"
いや、もっと早く教えて─。
いろんなことが重なって気が重い中、出版社の受付に行くと小笠原さんは会議中とのこと。私は少しの間、漫画部門の中にある待合室で待つことにした。
この時間でさえも、漫画ではなく次のアパートや時給の良いアルバイト先を探す時間に充てなければならないのが悔しい。
バイトを増やさなければならないけど、そうすると漫画を描く時間が減ってしまう。
どうしたものかとスマホで賃貸情報を眺めていた。
──そういえば小笠原さん。彼女さんは見つかったのかな?あまり落ち込んでなきゃいいけど。でも今時ドタキャンって……漫画じゃないんだから。
「家を探しているんですか?」
「ひぃ!」
突然、小笠原さんの声が耳元で囁かれた。
ビッ、ビックリしたぁぁ。心臓バクバクもんだよ。
「お、驚かさないでくださいよ、小笠原さん!」
「すみません。でも一回声をかけたんですが返事がなかったもので」
「そうなんですか、ごめんなさい。ちょっと色々考え事をしちゃってて」
小笠原さんは私の言葉を聞きながら向かいの席に座った。それと同時に私は辺りをキョロキョロと、誰も近くにいないことを確認してから小声で話しかけた。