【完結】この結婚、漫画にしちゃダメですか?
「あの。土曜日は勝手なことしちゃってすみませんでした。あとこれ、指輪まで持って帰ってきちゃったみたいで」
「いえ。僕もいろいろあって指輪のことすっかり忘れていたもので」
私は手で握った指輪を返そうと小笠原さんの方へ手を伸ばして渡そうと時、「あれ─、もしかして香菜ちゃん!?」となにやら聞き覚えのある声が……
小笠原さんが急に立ち上がって慌てた様子でその声の主に向かって言った。
「社長!」
そこにいたのは土曜日に会ったばかりの小笠原のお兄さんだった。
何でこんな所にお兄さんが……って、あれ?今、小笠原さん……社長って言ってなかった?!
「やっぱし香菜ちゃんだぁ─。俺、一回会っただけでも女性の顔は忘れないからね。でも香菜ちゃん、なんでこんなところに?……あ─!新婚さんだから、またすぐ拓実に逢いたくなっちゃったぁ?」
お兄さん!声、大きいです─
お兄さんがその言葉を言った瞬間、漫画部門の編集者達がザワツキ始めた。
特に私に向けての女性社員からの視線が強くなったのだ。
「え、小笠原さんの結婚相手ってあの漫画家だったの?!」
「うそ─ショック─。なんであんな子と?」
そんな噂話があちこちから聞こえてくる。いやもう、私に聞こえている時点でそれは噂話ではない。
ヤバイよ。ヤバイって。まさかこんな所で変な誤解が知れ渡るなんて。
「え?香菜ちゃんってもしかして漫画家さんだったの。じゃあ出会いはここ?なんだよ─、それならそうと言えよなぁ拓実」
ヒィィ─!誰かお兄さんを黙らせて─。
「社長。何か用事があってここにきたんじゃないんですか。僕も暇じゃないので用件を早く言ってもらえませんか」
「なんだよ─、社長なんて他人行儀だよな。まぁ、いいや。土曜日言い忘れちゃってさ、二か月半後にうちの創立記念パーティーがあるだろ。それに拓実達、夫婦揃って出席ね。これ業務命令」