【完結】この結婚、漫画にしちゃダメですか?
頭が真っ白になった。
私と小笠原さんは二人で顔を見合ってフリーズしてしまっている。
「ねぇねぇ、それ香菜ちゃんのスマホ?俺と番号交換しようよ─。ね、番号教えて?」
「……はぁ…090─」
「了解─。あとで俺の電話番号も教えるね」
「優木さん!?」
私は小笠原さんの叫ぶ声で我に帰った。
頭が真っ白のなか無意識に電話番号を呟いていたらしい。
何をしているんだ、私。かなり動揺している。
「優木って香菜ちゃんのペンネーム?可愛い名前だね」
お兄さんはそう言って私の肩に手を置いた。とその瞬間、小笠原さんがその手を跳ね除けた。
「社長。これ以上用件がなければ早く仕事に戻られては。あちらで秘書の方が待っていますよ」
フッと微笑んだお兄さんは、小笠原さんと私にだけ聞こえる声で話した。
「そんな邪険にしないでよ。他人の物には手出さない主義だから。本当はね、原出版の動向には気をつけてって言いに来たんだ」
「原が……?」
「最近またこっちのスキャンダルとか探って蹴落とそうとしているらしいよ。懲りないよね─。だからプライベートのスキャンダルは一応気をつけてね」
お兄さんが言った原出版。私も知っている。
今、QEDの次に力をつけてきている出版社だ。結構ガセネタも多いらしいけど、それでも社長がやり手なのか売り上げを伸ばしている。
小笠原さんも小声で言い返した。
「僕よりも兄さんのプライベートを気をつけるべきなんじゃ」
「大丈夫!俺って隠すの上手いから。じゃ香菜ちゃんもパーティーよろしくね」
お兄さんはそう言い残して秘書の待つほうへ行ってしまった。
──なんか色々有りすぎて状況が上手く飲み込めない。それにこの場をどう収めたらいいの?
お兄さんが去った途端、また周りがガヤガヤと騒がしくなってきた。それに気づいた小笠原さんが直ぐ様私に寄ってきた。
「優木さん。ここにいたら色々面倒なことになりそうなので、近くの商店街にある"まちだ"っていう喫茶店で待っていてもらえますか。後で僕も行きますので」
「まちだですね。わかりました!先に行ってますので」
そうだ。きっと私よりも頭の回転が早い小笠原さんならなにか良い案があるかもしれない。
私は微かな期待を持ってこの場を急いで脱出した。
そして、この時は自分達のことで精一杯だったけど、もう一人今までのやり取りを見ていておかしいと思った人物。
その人物から後になって色々問いだたされることになるとは、この時の私はまだ考える余裕もなかった。