【完結】この結婚、漫画にしちゃダメですか?
お昼を過ぎた頃の喫茶店は人もまばらになっていた。いい意味でとても昭和を感じるレトロな雰囲気。
商店街があるのは知っていたけど、こんな素敵な喫茶店があるのは知らなかった。
このレトロな雰囲気が漫画に出てきそうな感じだな─……って、今は他に考えなきゃいけないことがある。そうでしょ、小笠原さん!
「…………」
「…………」
いつまでこの沈黙?かれこれ10分は経っている。
小笠原さんは珈琲を飲みながら、ずっと何かを考えているような渋い顔。
うぅ─もうこの沈黙、耐えられない。
「あの─。小笠原さん?まずは色々と聞きたいことがあるんですが」
「あ。あぁ、すみません。ちょっと考え事を……何でしょう?」
ようやく小笠原さんをこっちの世界に戻せたようだ。
「さっきお兄さんのこと社長って言ってましたけど、もしかして小笠原さん達って創業者一族?」
「はい。元々は祖母と祖父が始めた会社だったんですが、祖父が死んでからは祖母が会長、兄が社長となって今に至ってます」
──そうだったんだ……でも、あのおばあさんが会長って、この偽結婚がばれたらもしかして私、冗談では済まされないんじゃ。
出版社、出禁になったらどうしよう……
「あと。ちょっと、というかかなり聞きづらいのですが……あれから香菜さんとは連絡つきました?」
「いえ。一応留守電にも入れてみたんですが連絡とれなくて。あの、僕からも優木さんに聞きたいことがあるのですが」
小笠原さんは神妙な面持ちで質問を返してきた。
いや、そうですよね!社長のことじゃなく今はこれからどうするかが問題ですよね。いい案が出るならば何でも質問してください。
「さっき賃貸情報を見ていたのでもしかしたらと思ったんですが、今住むところ探してるんですか?」
え、今その情報いる?
少し拍子抜けした私は小さな溜め息をつきながら、弟の転勤のことや一人暮らし用のアパートやアルバイトを探していることを伝えた。
「そうですか……」
そう言うと、小笠原さんはまた何か考え込む様子で珈琲を一口飲んだ。これからの話をしたいのになかなか話が進まない。
私も小笠原さんにつられて、珈琲を一口含んだところで「優木さん」と小笠原さんが口を開いた。
「優木さん。……いえ、片桐さん。僕と一緒に暮らしませんか?」