【完結】この結婚、漫画にしちゃダメですか?
お互いのギャップ
── 一週間後の月曜日
今はまだ朝の7時。
タクシーを降りた私は手に持っている紙切れを再度確認した。
"港区神原1-2-2001"
私は今まさにこの住所から上を見上げて呆気に取られている最中だ。
すごい……何これ。これが世間で言われているタワーマンション?初めて間近で見たかも。
──やっぱり小笠原さんは御曹司というものなのね。こんなマンションに住めちゃうぐらいなんだもん。
私は右手にスーツケース、左手に食材の入ったスーパーの袋を持って、事前に渡されていた合鍵を使いエントランスへ入って行く。
エレベーターで最上階のボタンを押しながら、昨日の功太とのやり取りを思い出していた。
──功太のポイント攻めが凄かったな。
「……で。そんな急に住む場所なんて決まるのかよ」
「それが─、条件のいい物件が見つかってね。とりあえず明日からそっちの方に住み始めるから」
そう言うと、功太が疑いの目で見つめてきた。
「もしかして姉ちゃん。彼氏でもいるの?」
「はぁ!な、なに言ってるのよ。そんなわけないじゃん。今までの私を見て言ってるの?」
自分で言っておいて情けないが。
「だよな!今は漫画一筋の姉ちゃんに恋人なんているわけないよな─。でも姉ちゃんだって磨けばモテる方なんだから、勿体ないことしてると思うよ」
そんなこと言ってくれるのは身内の功太だけだよ─。でも、心苦しいけど小笠原さんのことは今はまだ言えないです……
「……で。姉ちゃんの新しいアパートの住所は?」
「へ?」
「いや、だから住所。知っておかないと何かあった時困るじゃん」
「あ─住所ね。今ちょっとド忘れしちゃったかな─。あとでメッセージで送っておくよ」
「忘れんなよな」
──功太って昔からいつも勘が鋭いところがあるのよね。……でも住所。見たら一発でわかるタワーマンションの住所。さて、どうしたものか。
そんな事を考えながら乗ったエレベーターは、意外と最上階まであっという間だった。そして降り立ったフロアにはドアが一つだけ。
もしかしてワンフロア全部小笠原さんだけの部屋ってこと?
すごいことばかりで段々と感覚が麻痺してきた。お金持ちはこういうものなんだと思って割り切ろう。
私はそのたった一つあるドアのチャイムを鳴らした。