【完結】この結婚、漫画にしちゃダメですか?
「と、とにかくお世話になっている立場で色々物言いしちゃいましたけど、漫画家に限らず物書きは皆さん真剣に……」
キッチンに食器を置いて戻ろうと振り返ったその時、いつの間にか小笠原さんの顔が目の前まで近寄っていた。
こっちをじっと見ながらゆっくりと手を伸ばしてくる。私は慌てて後退りをしてしまった。
な、何?!小笠原さんの手が私の顔に…………
「いひゃい!なにしゅるんれすか?」
小笠原さんの手が私の口元をぎゅ─と力一杯握ってしぼめてきた。
「俺、朝は低血圧なの。片桐さん朝からうるさくしないでくれる?」
そう言った小笠原さんに私は頭をコクコクと縦に振る。
なんなのもう!本当にギャップ有りすぎでしょ。
ようやく手を離してくれた小笠原さんは何かに気付いたように一言付け加えてきた。
「あと。変に勘違いされても困るからあえて言っておくけど、俺今でも彼女のことを想ってるから」
「わ、わかってます!絶対勘違いなんて有り得ませんからお気になさらずに!」
怒り顔でそう言った私に小笠原さんは少し笑いながら、仕事へと出掛けて行った。
急に力が抜けてその場に座り込んだ私は、自分の心臓が早く脈打つせいで呼吸が荒くなっている。
──男性経験の少ない私には小笠原さんのアップ顔は心臓に悪い……。あまり近づかないでおこう。
一息ついて立ち上がろうとした時、ふと視界にあの倒してある写真立てが映った。
──たぶん、というか絶対香菜さんとの写真だよね……。小笠原さんのプライバシーだよね。ん─でも、気になるな─
いけないいけないと思いつつも、好奇心に勝てない私の手は、写真立てに伸びていってしまう。そこには見たことのない優しい顔の小笠原さんと……風になびいたサラサラのロングヘアーがよく似合う、整った顔の女性が写っていた。
まさに美男美女という感じだ。
──すごい大人っぽくて綺麗な人……
写真に見とれているとポケットの中に閉まってあったスマホが突然鳴ったのだ。
それは私のスマホには登録していない番号の持ち主からだった。