【完結】この結婚、漫画にしちゃダメですか?
出版社を出てから私の頭の中では、小笠原さんの放った言葉がぐるぐると回っていてなかなか怒りが治らない。
せっかく暖かくて気持ちの良い小春日和なのに、挫折と怒りと情けなさでいっぱいだ。
「はぁ─……」と重い溜息。
そういえば、二年前にデビューした日も確かこんな感じの小春日和だった。
その日は新人漫画大賞発表の日。
私は朝から落ち着かない様子でずっとスマホを握りしめていた。
それは賞を取った漫画家には雑誌にその名が載るよりも先に、直接連絡があるからだ。
「姉ちゃん。少し落ち着けよ。傍でずっとウロウロされちゃこっちまで落ち着かない」
湯気のたった珈琲と香ばしく焼けたパンをテーブルの上に用意しながら、私の二つ下の弟・功太は言った。
功太とはばあちゃんが死んでから二人暮らしだ。
「だって!今日で私のこれからの運命が決まっちゃうかもしれないんだよ」
「そんな大袈裟な」
「大袈裟じゃないよ─。功太は明日から大手商社に入るんだし、いつまでも姉がプータローのままじゃ世間体に悪いよ。それに、ここで賞が取れなかったらスッパリ諦めて就職しようと思ってるんだから」
アルバイト生活だけで今まで何とか頑張ってこれたけど、段々と金銭的にもキツくなってきてるし。それに理想や夢だけで生きて行くには年齢的に痛くなるお年頃だ。
大丈夫。今度の漫画は今までで一番の自信作だ。絶対賞を取ってるはず!……たぶん。
功太のほうに顔を向けると、変な自信過剰と無鉄砲なのは姉ちゃんの悪いところだ。と言わんばかりの目で訴えてきた。
──そんなこと自分がよくわかってるわよ─
「……ん?姉ちゃん。なんか姉ちゃんの部屋からブーブー聞こえねぇ」
「やだ、なにこれ!何で私、あんたのスマホ握ってるのよ」
どうやら私は色が同じ、功太のスマホを握り締めていたらしい。慌てて私は自分の部屋で鳴っているスマホを手に取った。
部屋で泣いて喜んでいる私を横目でチラッと見ながら、功太はパンを頬張りながらボソッと呟いた。
「姉ちゃんのおっちょこちょいな性格、歳取るとただの痛いおばちゃんだな」
私の耳は地獄耳……聞こえてるよ功太。