【完結】この結婚、漫画にしちゃダメですか?
────で、今は13時45分。現在に至る。
あまりの豪邸さを前に圧倒されていた私は、突然かかってきた電話の音で我に返った。電話の向こうでは小笠原さんの慌てた声が聞こえてくる。
「ケホッ……あ、片桐さん!今どこ?」
「今、和風で趣のあるすごいお屋敷の前に立っていますが」
私は少し不満気な声で嫌みを含んだ返答をする。なぜなら今の今まで小笠原さんから連絡が全くなかったからだ。
小笠原さんは私の返答だけで何かを感じ取ったのか、更に慌てた様子で話し続けてきた。
「いやいや。ちょっと待って!ずっと会議が長引いて連絡できなくてさ。俺も今、そっち向かってるから中に入るのは少し待って」
そうですか、そうですか。会議ですか。
この待ち合わせ時間間際で待てと言われても困る。もう来ちゃってるし……
「でももう時間ですし、おばあさんを待たせるのは悪いと思うので。とにかく先に入ってます。小笠原さんは急いで来て下さいね」
「ちょ、ちょっとま……」ピッ!
よし!とにかく笑顔で相槌を打つだけにして小笠原さんが来るまで耐えよう。
私は覚悟を決めてお屋敷のインターホンを押した。
「は─い。あら─香菜さん。今開けるから待っててね」
おばあさんの弾んだ声をインターホン越しに聞いたのと同時に大きな門が自動で開きだす。
私は名前を呼ばれてもすぐ反応できるように、“私は香菜、私は香菜、私は香菜……”
何度も繰り返し自分に暗示をかけながらおばあさんの待つ豪邸の中へと入っていった。