【完結】この結婚、漫画にしちゃダメですか?

──やっぱり創業者って儲かるのかしら?

なんて漠然とした下世話な考えをするのは、家の中が広過ぎるからだ。

門構えからしても立派なお屋敷というのは見てわかるけど、中に入ったら自分の声がエコーしそうなほど天井が高い。それに高価そうな調度品があちこち見受けられる。
ここが小笠原さんの実家なのかぁ。

──本当なら本物の香菜さんがここにいたはずなのに、偽物の私が入っていいのだろうか?

そう思うと、今ここにいる自分が急に恥ずかしくもあり申し訳なくなってきた。

「香菜さん!いらっしゃい。よく来てくれたわ─。さぁさぁ、遠慮しないで自分の実家だと思って寛いでね」
おばあ様。それは無理です─……

私は今更一人で入ったことに後悔を感じ泣きそうになったが、笑顔を顔に張り付けて挨拶をした。

「今日はお招き頂きましてありがとうございます。あのこれ、今人気のある紅茶セットでして、おばあ様のお口に合えば良いのですが」
私は持ってきた手土産を渡した。

「あらあら。わざわざありがとうね。じゃあクッキーと一緒に頂きましょ!さぁさぁ上がって」

「お邪魔します」
小笠原さん早く来て─!と心の中で叫びながらも私はおばあさんの後に続いてリビングへと向かった。

「そっちのソファーにでも座っていてね。ところで香菜さん。拓実との結婚生活はどう?」

「あ、はい。とても楽しく過ごさせてもらってます」
よし!予想通りの質問。

この短時間で私は、予めいくつか質問されそうな内容を予想してきたのである。その為の答えも一応準備してきた。

「それなら良かったわ─。あの子ったら今で言うイケメンらしいのに、無愛想なもんだから今まで浮いた話を聞いたことなくてね」

「そ、そうなんですね。拓実さんモテますもんね」

キッチンでクッキーとお茶の用意をしながら、おばあさんからの質問は止まらない。

「あ、そうそう。先日、御幸から聞いたんだけど香菜さんは漫画家さんなんですってね。じゃあ、やっぱり拓実との出逢いは出版社でかしら?」

うっ。この質問も考えたんだけど答えが見つからなかったのよね。なんて答えたらいいのか。

「あ、えっと……」
私が答えに戸惑っていると天の助けかのように玄関のチャイムが鳴った。
< 32 / 95 >

この作品をシェア

pagetop