【完結】この結婚、漫画にしちゃダメですか?
──三日後。
「それで明日は何時の便なの?」
「10時30分発のロス行き」
功太は東京本社での勤務が今日で終わり、明日ロサンゼルスへ発とうとしている。
しばらく会えないと思うと急に功太と飲みたくなったのだ。庶民的で少しおじさん率が高めの焼き鳥居酒屋で、私達は待ち合わせをしていた。
「そっか─。急にごめんね。もしかして今日送別会とかあった?」
「いや。送別会は先日、会社や友達にやってもらったから。それより姉ちゃんこそ一人暮らし上手くやってんの?」
焼き鳥を一本持ちながら功太は心配そうな顔をして聞いてきた。
「上手くやってるよ─。もう快適で快適で困っちゃうぐらい」
「ならいいけど。って俺、まだ住所教えてもらってね─ぞ」
「あ、あぁ─住所ね。ちょっと待って……確かかばんに住所を書いた紙が。あれぇ─ないな─、忘れてきちゃったかなぁ」
私はかばんを探す振りをしながら横目で功太をチラッと見た。すると功太は小さな溜め息をつきながら、何やら怪しそうな目でこちらを見つめている。
「もういいよ。姉ちゃんがおかしなことする人じゃないのは知ってるし。んじゃ、また今度でいいからメッセージに送って」
「……はい」
本当に姉想いの弟だ。私も……功太に心配かけないようにしなければ。
「それよりも姉ちゃん、本当は何かあったんじゃないの。いくらしばらく会わないといっても、漫画以外では出不精の姉ちゃんが外で俺と飲もうなんて珍しいじゃん」
「そ、そう?別に何もないよ。ほら、功太ともしばらく会えなくなっちゃうから、たまには外でどうかなって思っただけ」
私は手を振りながら笑顔で本当の理由を隠した。相変わらず功太は勘がするどい。でも最後に功太と会っておきたかったのは本当だ。
ただ、最近ずっと心の中がこう……モヤモヤしていて、あまり漫画を描くことに集中できていない。
功太は残っている烏龍茶を一気に飲み干して私に諭すように言ってきた。
「姉ちゃんは結構さ。自分にも相手に対しても鈍感なところがあるからさ。気になることがあったら、素直になって何でも相手に話したほうがいいぞ」
私のことは何でもお見通しのような言い方。段々と功太が神様かのように見えてきた。本当に拝みたいぐらいだ。でも。
「……鈍感か─」
「俺、明日早いからもう帰るわ。姉ちゃんももうすぐコンテスト締め切りだろ。頑張れよ!」
「うん、ありがとう。功太も仕事頑張ってね!」
私がそう言うと功太は手を挙げながら、足早に居酒屋を後にした。