【完結】この結婚、漫画にしちゃダメですか?
家に着く頃には片桐さんはもう俺の背中の上でぐっすりと眠っていた。何度か寝言を言う度にジュルジュルとヨダレを吸う音が聞こえる。
たぶん揺さぶっても起きないだろうが、とりあえず片桐さんをゆっくりベッドへ降ろす。降ろした途端、一気に疲れが出たみたいだ。一呼吸おいてからでないと立ち上がれなかった。
──やっぱりまだ本調子ではないのかもしれない。
しばらくして落ち着いたのと同時に俺は初めて入った片桐さんの部屋を見回した。でもすぐに “いやいや、あまり女の子の部屋をじっくり見るものではないよな” と自分に言い聞かせる。
俺が部屋を出ていこうとした時、机の上に漫画の原稿やネタ張と書かれたノートが目に入った。俺は漫画の進捗状況が気になってついネタ張をチラッと見てしまったのだ。
──なるほどね。こういう展開を考えているのか……まぁ悪くない。この後の取材先は遊園地になっているが一人で行くのか?それとも友達?……山田か?
そう考えた途端、何だかまた落ち着きがなくなりソワソワしてくる。
──さっきから俺は何なんだ!?
モヤモヤした気持ちを抱えたまま片桐さんの部屋を出た俺は風呂場へ向かった。やはり人一人ずっとおぶっていると汗をかくものだ。
風呂場のシャワーを浴びながら、頭の中では片桐さんと山田が遊園地で楽しそうにしている姿が目に浮かんでしまう。
──よし!取材だ取材。取材として遊園地には俺が付き添おう。
俺はよくわからない邪念を振り払うかのように蛇口を水に切り替えた。
「寒!!」
病み上がりに何をしているのか自分の馬鹿さ加減に嫌気がさした。