【完結】この結婚、漫画にしちゃダメですか?
「小笠原さん!」
振り向くと小笠原さんが仁王立ちの姿で不機嫌そうな顔をしている。
──ん? もしかして今ものすごく機嫌悪い? 今朝はあんなに機嫌良かったのに。
「優木さん。もうすぐ打ち合わせの時間なのでルーム1に今すぐ来て下さい」
「はい……」
小笠原さんに釣られて私も少し不機嫌になった。
──せっかくオシャレしてきたんだから、山田さんみたいに誉め言葉一つぐらい言ってくれたっていいじゃない。
朝の優しさや笑顔がすごい嬉しくて、張り切って……なんだか馬鹿みたい。
「はるちゃん!今度は二人で飲みに行こうよ」
去り際に山田さんから誘いを受け、私は「はい」とだけ言って小笠原さんの後を急いで追いかけた。
小笠原さんが足早に打ち合わせルームに向かって行くから、私はそれについていくのがやっとだ。ルームに着くなり小笠原さんは無言で椅子に腰かけた。
「あの……小笠原さん。何か怒ってます?」
さっきからこちらを見ようともしないし、また自分が何かやらかしてしまったのかと気になるではないか。
私のその言葉に小笠原さんは難しそうな顔をして聞いてきた。
「いや……俺、怒った顔してた?」
──はぁ?どう見ても機嫌悪そうですが。
そう思いながら思いっきり首を縦に振ると、小笠原さんは何かを思ったのか口元を手で押さえた。
「ごめん。ちょっとムシャクシャしちゃってたみたいで。……あ─、あの、片桐さんの今日の格好ってもしかして山田……」
“バンッ!”
「小笠原!!いるか!」
突然私達の打ち合わせルームに漫画部門の編集長がすごい剣幕で入ってきたのだ。急な登場に私達は体が固まって編集長の顔に釘付けになる。
「やられた!一週間後に載せる予定だった丸大先生の漫画、原出版に出し抜かれて明日の雑誌に載るぞ! 丸大先生はお前の担当だったよな、どうなってるんだ!?」
丸大先生……確か、新進気鋭の漫画家でどの出版社も連載を狙っていた人物。
「そんな、確かにうちで連載をする手筈になっていたはず……」
「そんなこと言っても実際、原出版の雑誌に予告編が掲載されてるんだ!うちの雑誌に穴が空いちゃうんだぞ。早く対処に向かえ!」
編集長の怒鳴り声で小笠原さんは急いで立ち上がり「早急に確認とります!」と、部屋を出ていってしまった。
一人残されしばらくその場で呆然としていた私にだって、これが大変な状況だということはわかる。
とりあえず今日は一旦家に帰ることを小笠原さんのラインに報告し、私は出版社を後にした。