【完結】この結婚、漫画にしちゃダメですか?
「あぁ、片桐さん。変なこと頼んじゃってごめん。会社にストックしてある服がもうなくなってしまって」
「いえ、私も少し気分転換をしたかったので。それより小笠原さん体調は大丈夫ですか?ずっと会社に泊まりっぱなしだったので心配ですよ」
そう話しながら小笠原さんのいるデスクまで、着替えとお弁当を持っていき直接手渡したのである。そして向かいにある椅子をガラガラと持ってきて小笠原さんは私に座るよう促してくれた。
「体調は大丈夫。なんとか空いてしまった穴も埋めることができたし、明日にはたぶん家に帰れると思う。……っていうかこれお弁当?」
「はい、簡単なおにぎりだけなんですけど。あ!もう食べてしまっていたら持って帰りますので」
「いや。実は最近あまり食べていなかったから助かるよ。ありがとう」
そう話すと小笠原さんはお弁当の包みを開け、おにぎりを一つ頬張った。
私はと言うと、小笠原さんのありがとうという言葉だけで顔が赤くなり嬉しい気分に浸っている。
そんな時、小笠原さんが急に食べる手を止め、なにかを考え込みながら軽く溜め息をついた。
「はぁ─……何やってるんだろうな─俺。実際、今回のことはかなり堪えたよ。決まっていたといえ、ちゃんと最終確認していなかったのは事実だし。……それにここ最近は他のことを考えることが多くてなかなか仕事が捗らなかったから」
小笠原さんはかなり弱っているのか、普段はなかなか見せない弱音を私相手に吐いてきた。
そう。弱音を見せるのは決まって香菜さん絡みのことだけ。
──そうだよね。香菜さんのことで頭いっぱいだったよね。それはわかっているけど、今は香菜さんの話しを聞くのは辛いよ。
「……あ。じゃあ、私もう行きますね。仕事無理しないでください」
香菜さんの話しを聞きたくないが為に、私はすぐこの場を離れたくて立ち上がろうとした、その時。
小笠原さんが私の腕を引っ張った。
その反動で私はまた椅子に引き戻され座ったのと同時に、小笠原さんの頭が私の肩の上にもたれ掛かってきたのだ。
私は一瞬頭が真っ白になった。
感じるのは自分の鼓動の速さと小笠原さんに触れられている肩の熱さ。
「……悪い。ちょっとだけ寄りかからせて」
「は、はい」
しばらく二人の間には静かな空気が流れていたが、小笠原さんは思い出したことを私に聞いてきた。
「……そういえば遊園地」
「遊園地?」
「そう。今度取材として行くんでしょ。……もしさ、一人で行くのだったら俺がその取材付き合ってもいいかな?」
──あれ。私、遊園地のこと小笠原さんに言ったっけ?
「あ……はい。一人で行こうと思っていたので、小笠原さんが付き合ってくれると心強いです」
疑問に思いながらも今はこの幸せな気持ちを噛み締めたかった。
そして、二人のやり取りを苦々しく廊下で聞いてしまった人物が一人いた。山田さんだ。
そこにいたことも、山田さんにこの時新たな決意が芽生えていたことを私は知るよしもなかった。