【完結】この結婚、漫画にしちゃダメですか?
ドアを開けた途端、目の前に突き出された真っ赤な薔薇の花束。それもいっぱいありすぎて前が見えないほど。私は一気に薔薇の香りを嗅いだせいか少しむせてしまった。
── 何事?!
「香菜さんですね。お初に御目にかかります。僕は原 祐二と申します。どうかお見知りおきを」
と、言われても目の前が薔薇いっぱいで誰だかわからない。私はとりあえず花束を受け取った。
改めて見ると、そこには少しパーマをかけた茶髪でスマートな佇まいの男性が立っている。私の中の男性像を分類して一言で言うと……チャラい?感じだ。
「やっと拓実くんの奥様にお会いできた。拓実くん、ちっとも香菜さんのこと教えてくれなかったから、僕全然知らなかったんです。……でもちょっと意外だな」
そう言うとその原 祐二は私の手を取り、引っ張りながら手の甲にキスをしようとした。それに慌てた私はすぐ手を引き抜こうとしたが間に合わない。
──ちょ!なんなのこいつ?!
「人の家で人の妻を誘惑するな」
その言葉と同時に小笠原さんが私のお腹に手を回し後ろに力強く引いてくれた。そのおかげで原 祐二からのキスを免れることができたのだ。
「そ─んなに怖い顔しないでよ。キスなんて海外じゃ挨拶みたいなものなんだからさ。ね!香菜さん」
「はぁ……。あのそれでどちら様?」
小笠原さんは溜め息をつきながら仕方なくといった感じでその男性を簡単に紹介し始めた。
「原出版の原社長。ちなみにここの一階下に住んでいる」
「もう!親友のが抜けてるよ―拓実くん。香菜さん、僕らは大学時代からの友人なんだ─」
敵対する原出版の社長が小笠原さんの親友?
「親友ではない。ただの知り合いだ。それより何の用だ?特に用事がないなら閉めるぞ」
小笠原さんが急いでドアを閉めようとドアノブに手をかけた時、原社長が慌てて今日来た理由を話し始めた。
「やだな─。拓実くんが結婚したっていうから奥さんを見に来ただけじゃん。やっぱり挨拶しておかないとね。ん─……でもちょっと意外なんだよ─」
原社長が私に目線を落とし、上から下まで見定めるように眺めてくる。と同時に私の顔近くまで覗き込んできたのだ。
さっきのこともあるから私は咄嗟に身構えてしまった。