【完結】この結婚、漫画にしちゃダメですか?
「そういえば拓実くん。この間はうちに作家さん取られちゃって大変だったらしいね─。大丈夫だった?」
リビングに行くと原社長は勝手にソファーに座りながら足を組みテレビを見て寛いでいる。
──いやいや、あなたが仕組んだことじゃない?! よくもまぁ白々しいことを。
段々と原に対する感情が変な人から怒りに変わりつつある私であったが、とりあえずは自分を落ち着かせる為、お茶でも用意してみる。
「おかげさまで。原のほうも大変だな。作家を取ったりスキャンダルネタを探したりしないとうちに勝てないんだもんな」
「そうそう。お互い親族が始めた家業を大きくしていかなきゃならないから、大変だよね─ 拓実くん」
この二人って仲が悪いのかいいのかよくわからない。特に原社長の意図が全く読めないのが更にこわい。そう思った時、ふと原社長の後ろ棚に置いてある、あの伏せてあった写真立てが目に入る。
──しゃ、写真!あれには本当の香菜さんが写ってる。……ヤバイよ!写真に気づかれたら見られちゃうかもしれない。
慌てた私は原社長と写真立てを交互に見ながら、どうしようかと頭の中で策を練ってみた。
でも結局は原社長に気づかれないぐらいのユックリとした速さで、写真が飾ってある棚まで近づくことぐらいしか思い付かない。
ジリジリと目線は原社長に向けながら棚まで進んだ。
──もう少し……あと少し。
「そういうわけで、今日は香菜さんにも話があって来たんだ─」
その言葉に私はビクッとし、棚まであと少しのところで動きを止め息を飲み込んだ。原社長が後ろを向き私を見ながら話してくる。
私はこれ程ない不自然な笑顔で聞き返した。
「……は、話ってなんですか?」
「実はね─。うちの漫画雑誌に掲載している漫画家さんが急に入院しちゃってね。空いてるページにちょうど他の漫画家さんを載せるんだけど……確か香菜さんも漫画家さんなんだよね─?一度原稿読みたいんだけどどうかな」
──え……それって上手くいけば連載のチャンスに繋がるかもってこと?念願の漫画家デビューができちゃうってこと?
「原! 俺の目の前で性懲りもなくうちの漫画家を引き抜くな」
「え─。だってこれは会社じゃなくて香菜さんの問題でしょ。誰だってすぐデビューしたいじゃない。ね、香菜さん?」
──確かに作家にとっては雑誌に掲載されることは何よりも嬉しいし今後にもつながる……
原社長の問いかけに、またもや不自然な笑顔を振り撒きながら私は答えた。
「原社長、ありがとうございます」