【完結】この結婚、漫画にしちゃダメですか?
「でも、丁重にお断り致します」
一応社長だ。そう思い深々とお辞儀をしながら断った。原社長は信じられないといった顔をしながら私を見つめてくる。
「え……え─!なんで、どうして?香菜さんだってすぐデビューしたいでしょ。拓実くんのとこと違って僕が言えばすぐ掲載してあげられるよ」
「そりゃデビューってものすごく心揺らぐ話ですけど、作家ってその時だけじゃダメだと思うんです。原社長の一存で今は掲載できたとしても、お話をちゃんと見て一緒に考えてくれる人がいないと今後、長続きしないんじゃないかなって」
そう話しながら小笠原さんのほうをチラッと見つめるとなんだか嬉しそうに微笑んでいる。そして小笠原さんは原社長に向けて話しかけた。
「原。俺も最近まで漫画家は会社の所有物で、ただ面白いものを描いて持ってくればいいと思ってた。……でもある漫画家を近くで見ていたら、真剣に一読者として漫画家にも作品にも関わっていこうかと思い始めたんだ」
そう言った途端、ふてくされた子供のように口を尖らせ、原社長は怪訝そうな顔をして私達を見てきた。
「……な─んか拓実くん、雰囲気柔らかくなってな─い? そんな拓実くん、いじるのつまらないから僕もう帰ろうかな。あ、あと香菜さん」
ソファーから立ち上がり私の方に近づいてきた原社長は、私の耳元で……
「やっぱり、僕と拓実くんってタイプが同じかも─。強気な女性は嫌いじゃないよ」
耳元がこそがゆくて咄嗟に耳を押さえ原社長を見返した私に向かってクスッと意地悪そうに笑ったのだ。
「え?」
「じゃあ、香菜さん。またね―」
それだけ言い残して手を振りながら原社長は家を去っていった。
「結局あいつは何をしに来たんだ?」
「小笠原さん。原社長は友達なのになぜあんなにQEDを目の敵みたいに?」
「俺もよくわからないんだ。友達って言ってもいつの間にかあいつが勝手に言ってたことだし。大学時代のことやこのマンションも俺のほうが上の階にいるの気にくわないらしい。他にも何かあるのかもしれないけど」
──それだけの理由?原社長の器ちっちゃくない?!
「あ─あ、作った料理が冷めちゃったな。温め直して食べようか」
──そうだ。まだまだ一日始まったばかり! もう原社長のことは忘れて今日は小笠原さんとゆっくり過ごしたい。
「そうですね。……あの、小笠原さん。もし良ければ今日少し食器とか見に行きません?」
「だね。結局色々あってまだ買えてなかったし。じゃあ、今日は足りないものでも買いに行こうか」
「はい!」
小笠原さんと一緒にいるのが嬉しくて、初めてのデート(?)が楽しみ過ぎて……私は忘れていたのかもしれない。
この先、所詮私は偽嫁であるということを思い知らされることになるのだ。