【完結】この結婚、漫画にしちゃダメですか?
漫画のシーンでは観覧車からの夜景を描こうかと思っていたけれど、「観覧車乗りましょう」と咄嗟に口から出てしまった手前もう乗るしかなかった。
観覧車に乗るのなんて何年ぶり……いや、10年以上は乗っていないか。そして久しぶりに乗る相手が好きな人だとは思ってもいなかった。
観覧車に乗り込みしばらく経ってから、私はあることに気がついてしまう。
「片桐さん。もしかして高い所、苦手だった?」
と、小笠原さんが少し心配そうな顔で見つめてくる。
「い、いえ。あの─、観覧車ってすごい久しぶりで。昔は平気だったと思うんですけどいざ乗ってみると、あれ? 意外と怖いかも?……みたいな」
──ヤバい。窓側の全てが怖くて目の前にいる小笠原さんしか見られない。
私の言葉を聞いて小笠原さんが久々に笑った顔を見せてくれる。そのことに少しホッとしている自分がいた。
「やっぱり片桐さんは面白い人だね」
「恐縮です」
そう言うと小笠原さんはまた微笑むと同時に、自分の膝にほおずえをつきながら私のことをジッと見てきた。そしていつの間にか真剣な顔になっている。
「……じゃあさ……怖いんだったら、今だけずっと俺を見てたらいいんじゃない」
「…………え?」
怖さで固まった体が余計に硬直した。真剣な目をして見つめる小笠原さんから、私も視線を外せない。
──それってどういう……
そんなに時間は経っていないはずなのに、私達の周りだけ刻が止まったみたいだった。
しばらくすると小笠原さんがこの狭い空間をゆっくりと立ち上がりこちらに向かってきた。
それと同時に私の視線も動く。
「片桐さん……俺」
私の後ろの窓に手をつき小笠原さんの顔が少しずつ近づいてくる。
こんな時は媚薬でも飲んだかのように、頭がトロンと溶けてしまって何も考えられない。
そして小笠原さんもまるで私と同じ状態であるかのように見えたのだ。