【完結】この結婚、漫画にしちゃダメですか?
「お兄さん!?」
そこには小笠原さんのお兄さんが立っていた。小笠原さんとは少し毛並みが違うものの改めて見るとお兄さんもやっぱりイケメンだ。スーツ姿がよく似合う。
「なに、家でも探しているの?あのマンション気に入らない?」
──どうしよう。偽嫁だって……まだお兄さんに知られるのはマズイよね?
「あ、いえいえ快適に過ごさせてもらっています! あの─……友達、そう友達が引っ越すことになってどこかいいところがないかなと思って見ていただけで」
「ふ─ん、そっかぁ。お友達、早く住むところ見つかればいいね」
「はい……あ─、お兄さんはどうしてこんなところに?」
お兄さんはスーツポケットに入れていた手を出し背伸びをするように腕を伸ばし始めた。
「車から香菜ちゃんが見えたからね。運転手帰してちょっと歩こうかなと思って。ほら、せっかくお天気もいいんだし外出ないと損な気分にならない?」
無邪気に話すお兄さんが、社長のイメージとはあまりにもかけ離れた姿に、少し心がほぐれ私はついクスッと笑ってしまった。
そして私達は最寄りの駅まで一緒に歩くことになった。
「香菜ちゃん、拓実とは上手くやってる? あいつ、かわいい弟なんだけど愛想がないのが欠点でね─」
「……大丈夫ですよ。拓実さん、実は結構笑うと可愛いんです」
その言葉を聞いたお兄さんは吐き出すように笑いだした。
──そう。小笠原さんは笑うと可愛いんだ。今日までいろんな小笠原さんを見てきた。だから考えなしで動く人じゃないっていうこともよく知っている。……なのに、今回の同居解消のことだけは全く意味がわからない。
小笠原さんのことを考えると一旦浮上した心がまた落ち込んでしまう。そんな私の姿を見て何かを察したお兄さんがまた話しかけてくれた。
「……俺もね。たまに見誤っちゃうことがあるんだよね、相手の気持ち。相手のことを想うが故の行動を取ったとしても、結局はそれが相手を傷つけているんだって」
そんな風に話すお兄さんがちょっと意外で、軽快な足取りとは反対にお兄さんの顔は少し雲っていた。
けれども私の視線に気づいたお兄さんは、またすぐにいつもの明るいお兄さんに戻っていく。
「──なんてね。要はちゃんと話し合わないとお互い誤解を生んでしまうってこと。拓実ってさ、最近変わった気がするんだよね─、それってやっぱり今の香菜ちゃんのおかげかな?」
「……え? それってどういう」
お兄さんの言葉に何か違和感を感じながら聞き返そうとした時、お兄さんは私の問いかけを遮った。
「あれって……拓実?」