【完結】この結婚、漫画にしちゃダメですか?
「お酒買ってきたって言ったじゃん。一緒に飲もうよ」
鼻歌を歌いながら原社長は、手に持っているビニール袋から缶ビール二本をテーブルの上に置いた。
「こんなので悪いけど乾杯しない?」
「あ、いえ原社長。それより私に話しって……何でしょうか」
──まさか、私が偽嫁だって勘ぐられているんじゃ……
私の質問をよそに缶ビールの蓋を開けた原社長はそれを一気に飲み干す。プハッ─と大きな息を吐きニッコリと私に向かって微笑んできた。
「やだな─、前にも言っているはずだよ。僕のところで漫画を出してみないかって」
「……ハァ─そのこと……あ。いえ、それは丁重にお断りしたはずですが」
──安堵したらつい溜め息が出てしまった。てっきり偽嫁だと勘ぐられているかもと思ったから……いや、もう小笠原さんとは一緒にいられないのだから、バレてもいいってことか?
「うん。でも僕はしつこいから諦めないよ─。それに強気な女性は嫌いじゃないって言ったでしょ?」
その言葉でハッと気づくと、いつの間にか私の横に原社長が座り耳元で囁いている。私は慌てて自分の耳を押さえ原社長とは反対方向に仰け反った。
──この男は人の耳元で話すのが癖なのか?!
またもや私の反応を見て面白おかしく散々笑った後、「それに……」という言葉を付け足してきた。
「君達は本当の夫婦じゃないんでしょ。君は偽物の香菜さん。……う―ん、確か名前は片桐 晴さん……だっけ?」
突然の問いかけに私の頭は処理能力が追い付かず原社長を見つめることしかできず。さっきの安堵した感情は一体なんだったのか……
──……嘘、バレてる。え、いつから?いつからバレてるの!?
「改めまして、晴さん。う─ん、さっきから想像通りのリアクションするね、君」
「あ、あの私と小笠原さんのこと……いつから……?」
「あぁ、先日拓実くんの家を訪ねた時にはもう知ってたよ。少しだけからかいに行くつもりが、思いのほか拓実くんの意外な一面を見たからそのまま帰ってきちゃった」
──そんな……え、その時にはもう原社長にバレていたなんて。
私はこの場をどうしたらいいものか何の策も浮かばない。でも、これが公になったら小笠原さんは……
私はダメ元を承知でお願いしてみることにした。
「あの、原社長。このこと……黙っていてもらえませんか?」