【完結】この結婚、漫画にしちゃダメですか?

控え室に入ってからは速かった。

すぐに二名のスタッフさんが来て、ドレスやら髪のセットアップ、メイクなどあらかじめ分担を決めているのか阿吽の呼吸で動き回る。

「まぁ。片桐様。お肌がとても滑らかでいらっしゃる。何か特別なお手入れでも?」

「いえ。特に何も」

そう、全くだ。お手入れどころか漫画にかかりっきりで今日徹夜明けだし、最悪なコンディションなんだけどな。

そっか、なるほどぉ。新婦を持ち上げて一日を気持ちよく乗せるトーク術なのね。

そんな感じで二名のスタッフの動きを見続け観察していると、あっという間に準備完了となってしまった。

「挙式の流れは先程お伝えした通りです。もう少しお時間がありますのでここでお待ち下さい」
そう言ってスタッフは出て行った。

──カメラ持ってきたし時間があるなら少しだけ見て回ろうかな。こんなチャンス滅多にないもん。

いや、普通の女子ならここで自分のウェディング姿にうっとりしそうになるけど功太曰く、自信過剰で無鉄砲なおっちょこちょい……それに付け加えて恋愛経験の少ない私にとって今は漫画が命なのだ。漫画の為の資料集めには余念がない。

デジカメを片手に忍ばせつつ、もう片手でドレスの裾を持ち上げながら控え室を後にした。

うわぁ、あのシャンデリアものすごく大きい。パシャ!
ここ螺旋階段あるんだ─。パシャ!
高台だから景色最高。パシャ!

うん。少しずつストーリーが涌き出てきたぞ。神社でまた麻希に聞いてもらおうっと。

私が満足げに、これからのストーリーを頭の中で組み立てていると「百田(ももた)様!」といきなり叫ばれた。……かと思ったら、次の瞬間カメラを持っていた手を掴まれスタッフらしき人と一緒に走らされていた。

え……な、何?何事?!百田?

「百田様!こちらにいらしてたんですね、探しましたよ。もう皆様お集まりになられています」

「あ、あの……私……ちが」

息切れがして上手く話せない。普段の運動不足のツケがこんなところで出るなんて。

私を連れたスタッフさんは脇目も降らず、先にある一つの扉目掛けて突っ走っていく。

バン!!
「お待たせ致しました!」

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