【完結】この結婚、漫画にしちゃダメですか?
──元を辿れば、香菜さんとお兄さんは元々恋人同士だったという話しになる。
小笠原さんと香菜さんが出逢う前、お兄さん達は恋人同士だったようだ。
けれどお兄さんは香菜さんの将来を思い、また香菜さんもお兄さんのことを思い二人はすれ違いが原因で別れてしまったらしい。
「拓実さんには本当に申し訳ないことをしたと思っているの。何も打ち明けず逃げるような形で去ってしまったこと」
「俺も知らなかったとは言え拓実には悪いと思ってる。拓実の結婚相手が彼女と同姓同名だったからもしやって一瞬思ったけど……晴さんが相手だったから。香菜が俺の元を訪ねて来るまで真相を知らなかったんだ」
──あ、もしかして会社の前で香菜さんを見たのはお兄さんと逢っていたから?
香菜さんは、小笠原さんと出逢った時も本当はまだお兄さんのことを忘れられていなかったようだ。
でも付き合うようになってその気持ちも少しずつ癒されていき、いざ結婚の話しが進んでいく中で小笠原さんの昔のアルバムに触れる機会があったらしい。
その時、香菜さんは初めて小笠原さんのお兄さんが彼だと知ったんだという。
「私が天涯孤独っていうこともあって正直、拓実さんの仕事のこととか家族のこととかあまり聞いてこなかったから、名字が一緒でもまさかお兄さんが御幸さんだとは思いもしなくて……」
小笠原さんは珈琲を少しずつ飲みながら香菜さん達の話しを黙って聞いている。私は小笠原さんの気持ちを代弁するような物言いで聞いてみた。
「でも、こんな逃げるぐらいならなぜ結婚をその時、破棄しなかったんですか? 結婚式まですることになって、それもレンタル家族だなんて……小笠原さんがどんな気持ちで……」
香菜さんは目線を下に移しうつむいていた。到底、いくら説明されたとしても私には理解できないことだ。
小笠原さんをチラッと見つめながら、香菜さんは静かに話し始めた。
「拓実さんとは本当に結婚するつもりでいたの。……でも、どうしても御幸さんのことが忘れられなくて、また自分の中で御幸さんが大きくなっていくのが止められなくて……それでなかなか言えず結婚式の日に」
そこまで話した香菜さんの目から涙が少し溢れつつあった。隣に座るお兄さんがそっとハンカチを渡し「大丈夫?」と一言呟いた。その問いに香菜さんは静かに頷く。
「レンタル家族は……結婚が決まった時に式だけお願いしていて。あとでちゃんと打ち明けるつもりだったんだけど……その後、色々あって結局そのままずるずると……本当に土壇場でいなくなってごめんなさい。拓実さんにも御幸さんにも迷惑を……」
「でもだからって、そのせいで小笠原さんは……」
「片桐さん」
突然、小笠原さんに言葉を遮られた。
私は小笠原さんの苦しみを間近で見てきたからわかる。わかる上での文句を言ってやりたかった。
でも、香菜さんもあとで冷静に考えればどれも自分の首を絞める行為ばかり、ハチャメチャなことだってわかるだろうに。
その時の香菜さんは自分の気持ちだけでもう一杯一杯だったのだろうか。