【完結】この結婚、漫画にしちゃダメですか?
それまで黙っていた小笠原さんが香菜さんに向けて口を開いた。
「香菜さん。俺はこの一年とても幸せだったよ。一時は本気で一緒になろうと思っていた女性だったから……でも」
そう言って小笠原さんは香菜さんをジッと見つめ香菜さんも小笠原さんをジッと見つめる。私はそんな二人を見てハラハラしていた。
──だって、やっぱり二人並ぶとお似合いなんだもん。自分に自信をなくしちゃう
私は二人の姿を見たくなくて顔を下に向けた時、小笠原さんが続けて言ってきたのである。
「……香菜さんが兄さんを想うように、俺もいつの間にか心惹かれていったんだ……片桐さんに」
──……小笠原さん
「今なら香菜さんの気持ち少しはわかるような気がする。結局はどっちもどっちだったんだよ、きっと。香菜さんには兄さん、俺には片桐さん……想う相手が違っただけ、それぞれが本当の運命の人と結ばれるべきだと思う」
「拓実……俺は」
「兄さんだって、香菜さんと嫌いで別れた訳じゃないなら一緒にいればいいじゃない。お互い本音をちゃんと話さないと何も解決しないんでしょ。俺達もそこんとこよく思い知ったから」
小笠原さんは私の方を向きながらテーブルの下でそっと私の手を握ってきた。
そんな小笠原さんを見て私は微笑みながら手を握り返す。
「んじゃ、そういうわけで俺達は失礼するよ。あとはお二人でよく話し合って」
「あ、拓実さん」
香菜さんに呼ばれた小笠原さんは一言だけ……「お幸せに。さようなら」と。
小笠原さんに手を引かれるまま私達はその場を早々に立ち去った。
喫茶店を出てからどんどんと先を急ぐ小笠原さんに手を引っ張られ、私はそのスピードに着いて行くのがやっとだ。
「お、小笠原さん! そんなに急いでどうしたんですか?ちょっと一旦止まりませんか」
「やだね!今すぐ家に帰りたい」
「ど、どうしてですか?!やっぱり香菜さんのことがショックで……」
小笠原さんにその疑問をぶつけると急に立ち止まるもんだから、私は小笠原さんの背中に突撃してしまった。
そして私の方を振り返り、でも目線を外しながらボソッと口を尖らせて呟く。
「今すぐ帰って……早く片桐さんと二人っきりになりたい」
──キャ─ ────ヤバい!萌える──!
こんな可愛いすぎる小笠原さんを私にだけ見せてくれているのかと思ったら、胸がキュ─ンとした。
何とも言えない幸せが襲ってくる。
私は小笠原さんの腕を引っ張り、屈んだ拍子に耳元で今の気持ちを真っ直ぐに伝えた。
「大好きです!小笠原さん」