【完結】この結婚、漫画にしちゃダメですか?
「──原社長」
もう何回も耳元でその声を聞いていれば嫌でも誰だかすぐわかる。
原社長はいつもと違うオールバックの髪型をし、紳士的な装いでチャラさ半減、カッコよさ倍増となっていた。
「どこの美女かと思ったら晴さんなんだもん。何一人で寂しそうに立ってるの?拓実くんったら女性をほったらかし?」
「ええ、まぁ。今、挨拶のほうに……原社長も呼ばれていたんですね」
「そりゃ、ライバルとは言っても同じ出版業界だからね。一応呼ばれていますよ─」
「あ、先日は色々とお騒がせしました。まだ原社長にはお礼言ってなかったなと」
私は深々とお辞儀をしようとした途端、原社長がまた突然に私の肩へ手を回してきたのだ。
「じゃあさ、お礼の代わりと言っちゃあ何だけど、今日俺にエスコート……」
「お断り致します!」
原社長の行動パターンも段々と読めてきていた私は、彼が言い終わるよりも先にお断りを強調してみた。
「え─晴さん、厳しいな─……と、と、と、あれ?」
そう言いながら肩を組んできていた原社長の手がどんどんと私から離れていく。
「拓実くん!?」
「小笠原さん?」
小笠原さんが後ろから原社長の首根っこを掴んで自分の方へすごい力で引き寄せていた。それにとても怖い顔を原社長に向けている。
「凝りもせず片桐さんに何をしているんだ?原」
原社長は掴まれていた襟を小笠原さんの手から引っ張り返し、再度綺麗に整えながら不満げに呟く。
「拓実くんってさ─。意外とやきもち焼きだよね─。晴さん、拓実くんが嫌になったらいつでも僕のところに来てね!」
その言葉だけ残し原社長は私に投げキッスをしながらその場を後にした。
原社長の姿を見送った途端、小笠原さんはハァ─と溜め息をつきながら、今度は私に「まったく……」と一言。
「……片桐さんも隙ありすぎだよ」
「そんな……私は別に隙を見せているわけじゃ。小笠原さんが一人にするから……」
「俺だってこんなパーティー本当はどうだっていいんだけど……この後、大仕事が残っているからさ」
「大仕事?」
「とりあえずこっちに来て」
何が何だかわからず呆けていた私の手を咄嗟に取り、小笠原さんは人ごみの中をすり抜け私を壇上の近くまで誘導したのだった。