【完結】この結婚、漫画にしちゃダメですか?


そう言った後、小笠原さんは招待客を見渡しながら再びゆっくりと話し始める。


「この度、現社長 小笠原 御幸の後任として(わたくし)、小笠原 拓実が代表取締役社長に就任致しましたことをご報告致します」


小笠原さんのその突然の言葉に、招待客が一斉にザワツキ始めた。当然私も寝耳に水……驚くばかりだった。

──小笠原さんが社長?! でも、それじゃあ、お兄さんはどうなるの……

「甚だ微力ではございますが一意専心(いちいせんしん)、社業の発展に精励いたす所存です。今後ともご指導、ご支援のほどお願い申し上げます」

最後にお辞儀をした小笠原さんに皆、大きな拍手を送っている。

しかし一旦終わったかに見えた小笠原さんのスピーチが「それと……」と続く言葉に招待客の拍手が一瞬で鳴り止む。
そして周りを見渡していた小笠原さんの目が私一点に注がれた。


「ここで私の大事な女性、片桐 晴さんを紹介したいと思います」

──……へ。──……片桐 晴さん……え、私!?

突然呼ばれた自分の名前にすぐには反応できず私は固まってしまった。その瞬間、壇上に集まっていたいくつかの照明が私に集中して向けられる。

「片桐さん。こちらに来てください」

「晴さん、拓実のもとへ行ってあげて」

躊躇していた私の背中にそっと優しく手を添えてくれたおばあ様に促され、そのまま小笠原さんのいる壇上へ私は上がって行った。

隣に来た私を確認すると、小笠原さんはマイクを介して再び話し始めたのだ。

「私は彼女と付き合い始めてまだ日は浅いのですが、既に生涯の伴侶として将来を見据えています。私が違う方向へ向いてしまうとき彼女はいつも真っ直ぐな心で私を正しい道へと引き戻してくれる……」

そう言った後、小笠原さんは私の方に向き直し手を取って、目を真っ直ぐ見つめて、優しく微笑んで…………



「片桐さん……俺と結婚してください」


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