Rain shadow─偽りのレヴェル─
だけど、聞いたところでどうなるというんだろう。
いずれすべてをこの目で確かめる日がくるだろうから、わたしはそのとき水本 爽雨として受け入れるだけ。
だから気になっていたことも、ぜんぶ赤矢と同じように取り消すことにした。
「それで、なんつーか……ありがとな、」
ぼそっと、暗闇のなかで聞こえた言葉はわたしが欲しかったものだ。
ごめんねなんかより、こっちを求めていた。
間違いなく烏間 赤矢からの言葉で、そっと視線を向けてみる。
天井を見つめていたフェイスラインは暗闇のなかでも整っていて、思ったより長い睫毛をしていること。
鼻筋もスッと通っていて綺麗だった。
「…なんだよ、」
「…いや、赤矢、やっぱり関西弁にしてくれないか、」
すると、目を奪われていたフェイスラインがわたしのほうを向く。
いつもツンツンと跳ねさせている赤髪はおでこを見せているのに、今はお風呂後ということもあってか無造作に下ろされていた。
「やだね」
ベッと、いじわるな舌が飛び出す。
───戻ってきてくれないか赤矢、Rain shadowに。
本当は今日、どのタイミングで言おうかずっと迷っていた。
こんな言い方はしたくないけど、この機会を利用すれば頷いてくれるんじゃないかって。