Rain shadow─偽りのレヴェル─
でも、もうその必要はないと、いまの顔を見ればわかる。
「…おい、なに、なんで泣いてんだよ、」
「う、うれしくて…、っ、わるい、」
わたしの涙に気づくと動揺していた。
だけどそれが悲しみから流れたものではないと察するのだけは、彼のお得意。
泣いている妹や弟の面倒をずっと見てきただろう赤矢だから。
「…なんやねんそれ。───…ドアホ」
わたしは赤矢の関西弁と「ドアホ」って言葉、嫌いじゃない。
そこにはすごく温かい気持ちが込められているんだ。
「あー、擦るな擦るな。ええって、無理に泣き止まんくても。…見なかったことにしたる」
間に眠る赤帆ちゃんを起こさぬようにそっと伸びてきた手が、わたしの頭をぽんぽんと叩いた。
「…やっぱ柔らかすぎや」
赤矢の声は、聞いたことないほどに優しいもので。
「なぁ今度、お前の家…遊び行ってええか?」
「…!本当か?なら綾都と瀧と───」
「なんでやねん。…流れ的にそこはオレだけだろ」
関西弁と標準語のダブルパンチときた。
それならお母さんにバルサミコ酢を使った料理をお願いしておかなくちゃ。
その日はとても温かい夢を見るように、すうっと眠りに入った。